サイトウ・キネンの直中で

2012年9月1日

今年のサイトウ・キネンは、8月11日から9月10日までの長丁場だ。もちろん、毎年1ヶ月近く滞在してオペラとシンフォニーの両方をやっている人もいるが、私は7年ぶりにオペラに参加したため、長くなった。ただ、中間には飛び飛びに休みが入るので、実際に働くのは20日程度。それでも、何となく「1ヶ月間はサイトウ・キネン・オンリー」という気分になるから、不思議なものだ。

今も、実は4日間の休みの真っ只中で、松本から1時間余りで来られる八ヶ岳の山荘に滞在中である。到着した時は「涼しくて快適」と喜んだが、今日は冷え冷えとした日になり、少々がっかりしている。でも、明日の夜にはまた松本に戻って、月曜日からは特別演奏会のリハーサルとなる。

今回は、小澤さんが指揮をしないので、私にはいつもとは違う緊張感がある。初めての指揮者には、目の見えない人間がオーケストラで弾いているという事実が、どんな風に写るのだろう。特に、サイトウ・キネンと私の長い縁を知らない人にとっては……。これは取り越し苦労かもしれないのだが、遠くから来る視線を感じることが難しい私は、つい緊張してしまう。見られてなどいないかもしれないのに。

それはさておき、サイトウ・キネンに参加することで得られるものは、計り知れないほど大きい。まず、私にとってはオーケストラで弾くことが非日常的な行為であり、その経験をさせてもらえることが何よりも有り難い。また、古い知り合いとの交流や、新しい友達ができることも、大きな喜びである。ただ、暗譜で苦労している時は、「なぜ俺はこんなことをやってるんだろう」と苛立たしく思うこともある。楽譜が見えさえすれば簡単に弾けるところでも、何日もかけて覚えなければならないのだ。投げ出したくなることもないわけではない。

だが、「これも音楽の神が与えてくれた試練だ」と考えれば、なんとか乗り越えられる。そして、その試練を与えてくれたのが、他ならぬ齋藤先生なのである。大学時代、例外なくオーケストラに加わらせ、訓練してくださった齋藤先生の鞭と思いやりがなければ、サイトウ・キネンに参加することはあり得なかった。そこに齋藤先生の教育へのただならぬ情熱があったと、私は振り返る。このオーケストラで私が弾くことによって、少しでも先生の偉大さが知られれば、この上ない幸せである。そのことが、時々挫けそうになる私の心を支えてくれている。