一人での移動は独立の証

2013年3月29日

 もう3月が終わろうとしている。気温のアップダウンが激しい1ヶ月だったが、それを繰り返しながら季節はどんどん進んで行く。去年は開花が4月1日だったというのに、今年はもう桜が満開を過ぎてしまった。そんな中、私はコンサートやサマーコースの準備に明け暮れる毎日だった。
 私のコンサートを聴きに来てくださるお客様の中には、携帯やパソコンにあまり縁のない方も数多くおられる。そういう方々には、チラシとご挨拶状をお送りして、是非聴きにいらしてくださいとご案内するわけだが、先週の後半はその郵便物の発送準備をした。私の分担は、ご案内の手紙とチラシ、チケット申し込み用の葉書などを組み合わせて封筒に入れる作業。この時期は、大好きな高校野球を聴きながらやれるので、けっこう楽しい。でも、昼間は他の用事があって夜遅くにやった日もあった。とにかく、4日間でおよそ500通の案内状を準備し、美寧子がそこにアドレスのラベルを貼って郵送する。そして昨日、ファックスで最初のお申し込みが帰ってきた。6月9日の大切な本番まで後2ヶ月余り、たくさんのお客様が私たちのブラームスに耳を傾けてくださることを願うばかりである。
 話は変わるが、3月16日に東横線の渋谷駅が地下に引っ越しし、副都心線との相互乗り入れが始まった。これで便利になった人も多いだろうが、渋谷で東横線からJRの山手線に乗り換えることの多かった私は、それができなくなって困っている。代わりに、目黒駅での乗り換えがなんとか一人でできるように覚えようとしているのだが、それほど難しくないはずなのに、なかなか思ったところへ行けなくて苦労をする。駅員にお願いすれば良いのだが、今まで渋谷の乗り換えが一人でできていたから、目黒ぐらいはなんとか覚えようと意地になっているのだ。
 私はよく一人であちこち出かけるが、「一人歩き」という点で言うと、私の可動域はとても狭い。人と一緒に何度も歩いた道でも、一人で歩くとなると自信がない。駅員や、点字ブロックの助けを借りて移動するのだが、街を歩くのは私には不可能だ。初めての所でも勇気を持って一人で歩いて行く視覚障害者がいるけれど、私には真似ができない。
 今度の日曜日は大阪でリハーサルだが、京都のフランス・アカデミーで弟子が勉強しているので、翌朝そのレッスンを聴かせてもらうことにした。京都のホテルを探したのだが、駅構内にあるホテルは余りに高いので辞めた。駅構内なら、駅員に頼んでホテルの入り口まで連れて行ってもらうことができるのだが、そのためだけでデラックスな部屋に泊まるのは本意ではない。そこで、駅から1分というホテルを予約したのだが、この1分が問題だ。駅の出口までは駅員が責任を持って誘導してくれるが、そこからホテルまでが難しい。初めて泊まるホテルだし、いくら丁寧に道を教えてもらったとしても、一人で歩く自信はない。
 結局、去年も宿泊した大阪駅構内のホテルに変更した。ここなら、チェックアウトの時はベルボーイが改札口まで送ってくれるので、なんの問題もなく電車に乗れる。翌朝京都へ移動し、京都駅の係員にタクシー乗り場まで案内してもらって目的地へ向かうのがベストだ、と判断した。
 それにしても、以前は障害者が一人で移動しようとしても、ほとんど手を借りることができなかったが、今は駅をはじめいろいろな公共機関で親切に手伝って下さるので本当に有り難い。また、人との待ち合わせなども、携帯電話が使えるようになって飛躍的に便利になった。タクシーでどこかへ行く時は、到着直前に先方へ電話して迎えに出てもらえば、全く安心である。私たちが単独行動をするために、多くの方々のお世話にならなければならないことに変わりはないが、一人での移動が容易にできるのは、独立した1個の人間としては本当に嬉しいことなのだ。
 間もなく私は、68才になる。いつまで元気に一人で移動できるかはわからないが、適度な運動で心身の活力を保ちながら、楽しく生活して行きたいと思っている。