今思うこと

2012年4月9日

人は、誰かから必要とされていると自覚できる時が、一番幸せなのではないだろうか。定年退職したサラリーマンが、不調を訴えたり鬱になったりするのも、「自分はいなくても会社には何の問題もないのだ」と思い知らされるからではないかと思う。そして、音楽の世界にあっても、実力を持ちながら、十分な演奏の機会に恵まれない人は少なくないと言えるだろう。

私は、音楽家の中では恵まれた人生を歩いてきたと思う。見えないための苦労は別として、音楽家生活は楽しいことが多かった。だが今は、時々軽い鬱に襲われることがある。演奏の仕事が減り、弟子の数も少なくなってきたことを思うと、暗澹たる気持ちになる。現在は、14日の本番を控えて元気溌剌としているが、これが終わると、7月28日まで本番がないという、前代未聞の事態が待っている。この期間をどんな気持ちで過ごすかが、その後の自分に大きな影響を与えそうな気がする。不安を抱えて悶々と過ごすのか、新たなチャレンジ精神で前向きに精進するか、この違いは大きい。

いつも、一定期間本番から遠ざかる時は、「前向きに楽しく過ごそう」と自分に言い聞かせるのだが、どうもうまく行かない。また本番が近づけば元気になるのだが、これからは暇な時間も増えてくるだろうから、気持ちの持ち方はしっかり訓練しないといけないと思っている。

一つだけ、私のレッスンを受講したり、演奏を聴いてくださったことのある皆さんにお願いしたい。もし良い思い出をお持ちだったら、それを周りの方々に語り伝えていただきたい。先生をしておられる方には、後輩たちに、私がどんな音楽を志向し、技術的にはどんなことを大切に教えていたかを伝えて欲しい。そうすれば、これまで私がしてきたことは無駄にならないから。そして、今も続けている「八ヶ岳サマーコース」にも、もっとたくさんの方がチャレンジしていただきたいと願っている。「音楽の喜びを多くの方々と分かち合い、自分の経験や恩師の教えを後輩に伝える」というのが、私にできる唯一のことだから。

被災地での演奏を希望してツイッターにも書き込むなどしたが、未だ実現していない。同じような望みを抱く人が余りに多いので、受け入れかねているのだろう。だがこちらは、「何も役に立てないのか」と挫折感を味わっている。いや、音楽の力は必ず復興のために一定の役割を果たせるはずだ。私の音楽を通して、実際にもっと多くの方々にそのことをわかっていただきたい。これまでに私といろいろな関わりを持ってくださった皆さんには、そうした私の思いを理解して、周囲に伝えていっていただきたいと願うのである。