喜びの日

2013年10月20日

 今日は、私にとって決して忘れられない日となった。2008年から指導してきた、中学3年生の古澤香理さんが、今日行われた「全日本学生音楽コンクール 東京大会 中学校の部」で、見事に第1位を受賞したのだ。私が同じコンクールの、同じ中学校の部で第1位をいただいたのは1958年、あれから55年の歳月を経て、後継者を育てることができたというわけである。
 曲は、メンデルスゾーンの協奏曲、第1楽章。今では小学生でも上手に弾いてしまう曲だが、作品の内容を表現するのは決して優しくない曲だ。今日も、レベルの高い演奏が続く中で、私は「やはりこの曲は難しいのだな」と思いながら聴いていた。
 最初は好調でも、ふっと集中力が途切れる人、途中からだんだん調子が出てくる人、良い演奏なのに見過ごせないミスをしてしまう人など、さまざまだった。その中で、15番目に登場した古澤さんは、最初からしっかり曲に集中していた。彼女らしい音色で歌い出すと、技巧的な難所を確実にクリアしながら、安全運転にはならず、緩急も織り交ぜつつ曲を展開して行く。ピアノを受け持った美寧子との息もぴったり合って、楽しげに弾き進んで行く。「どこかでミスをするのでは」とはらはらしながら聴いている私をよそに、彼女は集中力を保って最後まで弾ききった。聴きながら、「よくここまで成長してくれたものだ」と、何度も胸に迫る感動を覚えた。
 「もう何も言うことはない」と満足して家路に就いたが、やはり審査員の評価が気になり、帰りの電車の中では心が重かった。これまでも、好成績を確信した演奏が違った評価を受けてしまう例を、長い人生の中で嫌というほど経験してきているので、安心はできないという気持ちだった。電車を降りる直前、携帯が振動し、「第1位」の一報が届いた。この学生音楽コンクールか、日本音楽コンクールで優勝者を出す、それは多くの指導者にとって一つの夢ではないだろうか。もしその夢が叶ったら、おそらく私は飛び上がるほど嬉しいだろうと想像していた。
 だが、第一報を受け取った私の心は、自分でも驚くほど静かだった。そして、じわりと喜びがこみ上げてきた。この結果は、彼女と私の共同作業であり、古澤家の方々と美寧子の温かいサポートがあったからにほかならない。「古澤香理」というヴァイオリニストが成長して行くプロセスに、自分が関わっていられることに限りない喜びと感謝を覚え、私は香理さんに「良い演奏をありがとう」とメールを送った。
 これを一つのステップとして、彼女には確かな足取りでヴァイオリニスト、いや、芸術家への道を歩んでいって欲しい。そして私は、その良きサポート役となれるよう、自分も研鑽を積むことを怠らずに前へ進んで行こうと、気持ちを引き締めている。