10月に入り、2014年も残り4分の1になってしまった。前半の6ヶ月は仕事が少なかったので、忙しくなる夏から秋に備えて、譜読みなどは怠らずにやっていたつもりだった。しかしながら、サマーコース、サイトウ・キネン、そして今取り組んでいる岩崎洸さんとの室内楽と、あまり休みを取らずに続けてきた私は、9月20日前後には疲労困憊してしまった。
9月7日にサイトウ・キネンから戻った後は、順調に室内楽の勉強ができるはずだったが、思うように頭が働かず、譜読みをしたはずの譜面を忘れてしまって、いらいらしながら勉強し直す、といった日々が続いた。しかも、この時期にいくつかの原稿書きが重なり、頭が次第にパニック状態になっていった。
岩崎さんとのリハーサルの3日目、突然「もうなにも考えたくない。なにもやりたくない」という衝動に襲われた。ブラームスのトリオの暗譜がなかなか完成せず、そのうえ弾き方やテンポでも他の二人と少し意見が違ったりして、悩んだり考え込んだりするうちに、突然頭が止まったような感覚に見舞われた。
それでも予定どおりリハーサルをやり、夜は「点字毎日」に毎月書いているコラムを仕上げた。最近、1955年のオイストラフ初来日のライブCDが出たので、その話題を書いた。
翌日は、前からお頼まれしていた新橋ライオンズクラブの例会のゲスト・スピーカーを勤め、翌日からは2日連続のリハーサル。19日は心身共に不調を感じたが、20日は少し上向きとなり、1日おいた22日には、清里清泉寮でのコンサートを無事に終えた。やはり私は、弾くことが好きなのだと実感した。素晴らしいお客様に恵まれ、思う存分に弾いていると、疲れなど忘れてしまう。
だが、翌日東京に戻ると、またまたぐったりしてしまい、結婚記念日のディナーに出かける計画も流してしまった。その後は、とにかく疲れの回復だけを考え、通常どおりにレッスンや練習をこなしながらも、なるべく頭を休めることを意識して過ごした。一応暗譜が確かなものになり、その意味でのストレスが取り除かれたのも大きかったと思う。28日に行った久しぶりのリハーサルでは、それまで以上に曲を楽しみながら弾くことができた。
そして今日、富山の社交クラブ例会で、役1時間のコンサートを行い、コダーイのデュオやブラームスのトリオの断片を演奏した。22日に比べて、演奏の出来がどうだったかはわからないが、少なくとも私は、あの時よりずっとエンジョイしながら弾いていた。お客様の反応も申し分なく、とても静かに聴いてくださったし、ブラームスの後では何人かが歓声を上げていた。
おそらく全員が、私の音を聴いてくださるのは初めてだったと思うが、既にここで前にも演奏しておられる岩崎さんのサポートもあって、質の高い音楽をご披露できたと感じたし、手応えも十分であった。3日には金沢、5日には富山でコンサートだが、時間をかけて準備してきた私たちのアンサンブルを、存分に味わっていただきたいと思っている。
ただ、私自身はその後もハードな日程が続く。もう暗譜に苦しむわけではないから、あのような嫌な気分を味わうことはないだろうが、11日のアフタヌーンコンサート、19日の小海町、そして23日からのマレーシア旅行と、健康に注意して乗り切らなければならない。でも、それぞれの場所で演奏を待っていて下さるお客様に出会える喜びは、何者にも代え難い。その喜びを糧として、私は元気に仕事が続けられるだろう。
時々約束の日にちを間違えそうになったり、送ったメールをもう一度送ってしまったり、あれこれとドジは踏み続けているが、寛大な周囲の人たちに支えられて、どうやらまだタイムリーエラーを犯すには至っていないようだ。これからも、自分を信じ、周囲の人々を信頼し、「今日よりもっと素晴らしい明日がある」と信じて、一つ一つの仕事と取り組んで行こう。
富山のホテルで
2014年10月2日