新しい肩当て

2019年8月25日

夏が終わりに近づき、どうやら猛暑も収まりつつあるようだ。私は、例年以上に良い体調で「八ヶ岳サマーコース&コンサート」を乗り切ったが、東京に戻ったらすっかり疲れが出て、1週間ほどあまり冴えない日を過ごしてしまった。松本が近いので、練習や勉強を休んでずっこけているわけにもいかず、やや焦燥感に振り回される日々だった。
 私の体調にはおかまいなく、地球は回り続ける。「あれもやりたかった、これもやっておけばよかった」などという後悔や未練はどんどん押し流して、時は未来へ、未来へと私を連れて行く。そして、明日は松本への出発である。一応、自分が出演する曲の準備はできた。というより、できるだけの準備はした、と言う方が適切だろう。後は、月曜日からの練習に集中するだけだ。
 サマーコースは、いつにも増して受講者たちのまとまりと集中力に支えられた気がする。こちらが少々疲れていても、熱心にレッスンを受け、聴講にやってくる生徒たちが無言の励ましを与えてくれた。夜の睡眠がしっかり取れたことも、良い体調を維持できた原因だったと思う。去年は、コンサートの前の晩にほとんど眠れず、一人で楽譜を読んでいたのを覚えている。今年も明け方目が覚めたが、1時間ほどリハーサルの録音を聴くなどして、また眠った。本番も、いつもの年ほどの緊張がなく、ストレスの少ない状態で楽しく演奏できた。松本でも、この経験が生きるだろうと信じて出かける。
 ところで、その八ヶ岳に、ヴィオラ奏者の中村さんが、新しい日本製の肩当て、HOMAREを持ってきてくれた。東京のリハーサルの時、彼女がその肩当ての素晴らしさを力説するのを聞いて、最近時々手に痛みを感じることがある私は、是非使ってみたいと言って、彼女にヴァイオリン用のHOMAREを取り寄せて持ってきてもらったのだ。東京に戻ってから、わざわざ製作者に正しい装着法を教えていただくなどして、今はそれを快適に使っている。
 この肩当ての特徴は、従来の肩当てより低いので、原則として肩当て無しで弾いていた私にも違和感が少ないこと。そして、その特異な形状は、肩周りが動きやすいように綿密な配慮が成されているという。さらに驚くべきは、この肩当てを付けた楽器の響きが、付ける前より豊かになるのだ。自分の楽器では、さほど大きな違いを感じるまでに至っていないが、生徒の楽器で試してもらって、音が大きく変わったことにびっくりし、その生徒はすぐさまネットで購入した。別の生徒も、これは私が勧める前に使い始めて、とても楽に弾けるようになったと喜んでいる。
 演奏はとてもデリケートなものなので、ちょっとでも弾きやすくなれば、それで練習への集中力も変わってくることがあると思う。練習があまり好きでない私も、以前より手や肩にストレスがかからなくなったので、練習が楽しいと思える時間が少しだけ増えた気がする。
 楽器の響きが良くなるという点は、個々の楽器との相性もあるかもしれないので、私としては断言することはできない。だが、ヴァイオリン奏者の皆さんは、取り扱っている楽器店で試してみていただくと良いと思っている。
 読売日響のメンバーであるヴァイオリン奏者とヴィオラ奏者が力を合わせ、長い試行錯誤の後に作り上げたというこのHOMAREが、国際的に注目される日が来るかもしれない。HOMAREについては、詳しい説明と何本もの動画が製作者によって公開されているので、興味のある方はこちらをご覧いただきたい。もしかしたら、この肩当てが私の演奏寿命を少し伸ばしてくれるかもしれないと、希望を持ってヴァイオリンと向き合っている。