新年を前に

2018年12月31日

今月5日にサントリーホールで行われた「ドイツ・グラモフォン創立120周年記念コンサートのCDが送られてきた。日本での発売は、1月1日とのこと。さすがはドイツ・グラモフォン、素早い発売に驚いた。
 聴いてみると、アンネ=ソフィー・ムターのまるでサーカスのように鮮やかな演奏にも簡単するが、ディエゴ・マテウスが指揮したチャイコフスキーもなかなか素晴らしい。ロシア的な重さや暗さより、むしろ伸びやかな明るさが目立つ演奏だが、曲の運びが自然だし、アンサンブルがよく整っている。中で弾いていた時は、どちらかと言えば勢いに任せて突き進む演奏なのかと思っていたが、想像よりも緻密な音楽になっていて、嬉しかった。そして、このオーケストラの中に自分がいることを、誇りに思うことができた。
 間もなく新年を迎える。去年の大晦日は、疲れが出て体調を崩し、ほとんどをベッドで過ごしたが、今年は元気で年を越せそうだ。
 ただ、世の中に目を向けると、暗澹たる思いに心が沈む。世界中にエゴイスティックな風潮がはびこり、あちこちで人間同士が争っている。ネット社会には、何かといえば他人を攻撃し、自己の正当性を主張する輩が増えている。こんなことで、未来の地球は大丈夫なのだろうか。この社会で、音楽の力がどの程度通用するのかと、心細くなることもある。
 だが、挫けてはいられない。私の音楽人生は、もうそれほど長くはない。できる時にできることをしなければ、時間がもったいない。幸い来年は、念願だったブラームスの協奏曲の演奏が2月に実現し、今の自分の力を試す機会が与えられる。ここで、完璧とは行かなくても、自分として達成感を味わうことのできる演奏をすることが、目下の目標である。
 さらに、夏のオザワフェスティバルでも室内楽を演奏することが内定している。10月には、尊敬するヴァイオリニスト、マーク・ゴトーニさんと奥様でチェリストの水谷川優子さんを迎えての「アフタヌーンコンサート」も決まっている。素晴らしい音楽家たちとの共演で、音楽の喜びを分かち合う機会が待っているのだ。
 それらを楽しみに、そして家族や周囲、ひいては日本の平和を願って、来年もしっかり行きて行こう。私の音楽を聴いて、心の安らぎや希望を得る人が一人でも増えてくれることを願いながら、胸を張って新しい年に入って行こう。ここまで元気に行きて来られたことに感謝し、私を守り、支えてくれているすべての人に感謝しつつ、しっかりした足取りで2019年に歩み出そう。
 これを読んで下さる皆様にとって、2019年が幸せに満ちた素晴らしい年となりますように!