1年ぶりの宗次ホール

2013年10月4日

 ちょうど1年前、私は心臓の不調を押して名古屋の宗次ホールで演奏した。2008年から毎年私の演奏会を主催して下さっていたこの素晴らしい室内楽ホールで、チェロの岩崎洸さん、ピアノの土屋美寧子との共演で「シューベルトの夕べ」を開いたのだ。残念ながら、お客様は多いとは言えなかったが、医者からの入院勧告を拒否し、いわば命をかけて臨んだコンサートだったから、あれは決して忘れることができない。
 それから1年が過ぎ、また宗次ホールで弾く機会がやってきた。今回は、岩崎、土屋に加えて、ヴィオラの百武由紀さんとの初共演も実現し、ブラームスのピアノ四重奏曲と、それぞれの楽器のソロによる名曲という、楽しいプログラムを組むことができた。
 名古屋は、2005年から11年まで、愛知県立芸大で教えるために毎週通い続けた、思い出の深い町だ。当時教えていた学生の中には、今でも時々レッスンに来て顔を見せてくれる人がいる。今年のサイトウ・キネンでも、音楽塾のオーケストラに一人の弟子がいた。
 一方で、名古屋では思い出したくないつらい出来事も経験した。あれを思い出すと、今も心臓が痛くなりそうだ。しかし、そんな苦しみも乗り越えて、今私はここにいる。くじけてしまいそうな時に私を支え、元気づけてくれたのは妻の美寧子だった。彼女がいなかったら、今の私はどうなっていただろうかと、想像するだに恐ろしいほどだ。その妻も、元気にピアノを弾いている。そして明日は、彼女の恩師、ヘルムート…バルト先生の愛奏曲であったブラームスのピアノ四重奏曲、第2番を演奏する。音響の素晴らしいホールいっぱいに私たちの真心が届くよう、気持ちを込めて音楽をやりたいと思っている。