10月に入って

2020年10月2日

もう今年も3ヶ月を残すだけになってしまった。コロナ、コロナと言っているうちに時がどんどん流れて行ってしまう。私はコンサートを控えて、外出を自粛し、家で練習の日々。でも、なかなか前の演奏会から引きずった疲れが抜けない。これはどうしたことだろう。
 ベートーヴェンの協奏曲を無事に弾き終えて、喜びに浸ったのは4日前のことだった。それほど疲れたとは思っていなかったが、翌日、翌々日と、じんわり疲れがのしかかってきた。「これが年齢というものなんだろう」と達観していたが、今日あたりは「そろそろなんとかしなければ」と少し焦り始めている。
 10月10日の「アフタヌーンコンサート」は、本来なら岩崎洸さんを迎えて「幽霊」と「大公」というベートーヴェンの二つのトリオを軸に、小品も含んだプログラムを演奏するはずだったが、コロナの影響で岩崎さんがアメリカからの帰国を断念し、美寧子と私は急遽ソナタ2曲のプログラムに切り替えて、コンサートを予定どおり行うことにした。クロイツェルも、第10番も、実に素晴らしい曲だが、それだけにこちらがしっかり精神を集中して臨まないと、お客様に満足していただける演奏にはならない。
 今はまだ、私の精神は緩んでいて、充実した演奏に向かう準備ができていない。練習だけでなく、いろいろな麺でのパワーを蓄えて、当日までにはしっかりしたコンディションを回復させなければと思っている。
 去年のアフタヌーンコンサートは、マーク・ゴトーニ、水谷川優子ご夫妻と中村千香子さんを迎えての室内楽だった。3日連続のリハーサル、台風19合の影響で中央線が不通になり、回り道をしての清里でのコンサート、そしてすぐ東京でのアフタヌーンコンサートという、過密な日程だった。それでも、5人で一緒にやっている楽しさから、私はずっとハイテンションを保って、疲れを感じることなく当日まで音楽に集中できた。
 5人と2人では心の持ち方がずいぶん変わってくるし、実際に演奏する時のエネルギーも、やはり2人の時の方が大きくなるから、5人で室内楽を楽しんで演奏するのと同じ感覚にはならないが、あの楽しかった去年のことを思い出すだけで、なんだか今年も乗り切れそうな気がしてくる。
 美寧子とは、もう40年以上デュオで活動しているが、ただこれまでやってきたことを繰り返すのではなく、なにか新しいものを生み出すつもりで本番を迎えたい。そう言えば、コロナによって引き起こされた虚無感や絶望感も、もしかしたらより深い音楽を生み出す力になるかもしれない。ベートーヴェンだって、耳の病という絶望的な状況で、素晴らしい音楽を書き続けたのだ。「75才なんてなんのその」の心意気でやらなければと思う。
 こうしたことを書いていると、少し疲れが薄らぐ感じがする。明日はきっと、もっと元気な1日が過ごせるだろう。それを祈って、床に就くことにしよう。