コンサートの前日に

2016年12月23日

 いよいよ、今年の私の最後のコンサートである「クリスマス・バッハシリーズ」が近づいてきた。本当は、もっと頻繁にブログを更新して、準備のプロセスを記述できると良いのだが、なんだかいつも用事が立て込んでいて、なかなか落ち着いて書き物をする余裕が持てなかった。好きなSNSもこのところすっかりご無沙汰である。なぜこんなに余裕がないのかと自分でも不思議なのだが、たぶん少しずつ頭の回転が遅くなって、仕事の能率を低下させているのではないだろうか。
 特に体調が悪いわけではないが、レッスンや練習の後はどうしようもなく疲れてしまうし、睡眠不足も以前より身体に答えるようになってきた。先週は、水曜日に近くの田園調布教会でトライアルのコンサートをやり、木曜日と金曜日は試験の採点のため、桐朋学園の調布キャンパスまで出かけた。すると、金曜日の夜は、もう何もしたくない気分になってしまい、普段ならまだ宵の口の8時半ごろに、ベッドに潜り込んで寝てしまった。お陰で翌日からだいぶ元気になったが、土曜と日曜に4人ずつのレッスンをしたら、日曜日の最後の人の時に、途中でどうにもつらくなって10分ほど休ませてもらった。仕事や生活に支障はないが、「もっといつも元気でいられたら良いのに」との思いはある。ただ、無理やり元気になろうとするよりも、今の有りのままの自分を素直に受け入れる方が気持が楽になるかもしれない、とも思う。
 そんな心持の私が、明日は無伴奏のヴァイオリンでバッハ、レーガー、イザイの曲を聴いていただく。このコンサートに向けて私がずっと心がけてきたのは、「固定観念に縛られず、今の自分の思うままを表現したい」ということだった。解釈においても、練習方法においても、今までやってきたことをただ繰り返すのではなく、「これで良いのか、何か別のもっと良い方法はないのか」と考え、思いついたことはなるべく実践するように努めたつもりだ。その結果、どんな演奏ができあがったのか、明日はそれがお客さまの前に晒されることとなる。「何も変わっていない」と感じられるかも知れないし、「前より悪くなった」と思われてしまうかもしれないが、そうしたことを心配するのではなく、過去の自分を解放して新しい自分の演奏を作る、といった前向きな気持で弾いてみようと思っている。
 3日前、大学に行った折、招待状をお送りしていた何人もの先生方から、「行かれなくてごめんなさい」と挨拶を受け、それがけっこー答えた。一人ぐらいならまだよかったが、3にん、4人と立て続けに同じ挨拶をされると、「ああ、この先生も来てくれないのか」「こっちの先生にも聴いていただけないのか」とガッカリし、その気持が頭の中で渦を巻いて心の奥へ落ちていった。だが、こんな思いを抱えて本番に臨んではだめだと、自分に言い聞かせた。「来ない人のことを思って残念がるのではなく、来てくれる方々のことを思って感謝すべきだ」と。わざわざ遠方から、また多忙な中をやりくりして、私のヴァイオリンを聴こうと集まって下さる方々、そうしたお客さまのために演奏するのではなかったか!
 勿論「もっと多くの人々に聴いてもらいたいのに」というくやしさは、最近の私の自主公演では常に頭を離れない。でも、それを思って嘆いていても、お客さまに喜んでいただける演奏にはつながらない。ましてや、明日はクリスマスイブである。「今年はよいクリスマスになったな」と後から思い出していただけるような素晴らしい時間を共有していただくために、私はホールへ向かう。自分に与えられたこのステージを、私も精一杯楽しみたいと思っている。