八ヶ岳の山荘で

2018年7月4日

 今年も「八ヶ岳サマーコース」の季節が近づいてきた。その準備のため、昨日から妻と私は、泉郷の山荘に来ている。
 この山荘は、1984年に土屋の義父母が建て、私たちのサマーコースに使わせてくれていたのだが、4年前に義父が亡くなってから、土屋家の人たちは全くここを訪れなくなった。したがって、去年の9月9日に、私とともに松本に滞在していた美寧子が、後片付けのために数時間滞在して以来、10カ月ぶりに人間がこの家に入ったのである。
 来るまでは、「何か異常があったらどうしようか」と不安だったが、庭の木が1本倒れていて驚いたものの、さほど大きな問題もなくてひとまずほっとした。
 今回の滞在中に、私にとっては一つの重い決断をした。それは、固定電話の利用を辞めること。4年前に光回線を設置し、電話と高速のインターネットを楽しんできたが、この家に滞在する時間が余りにも短いため、維持費がもったいないということになった。電話はあまり使わないが、それでも固定電話からの通話は雑音が少ないし、相手の声も明瞭に聞こえる。インターネットも、iPhoneをパソコンに接続させて使うよりはかなり速い。その便利さを享受してきたわけだが、「そこまで便利でなくても良いのかもしれない」と発想を転換した。
 パソコンや携帯、インターネットなどのIT分野では、いつも新しいものを追い求め、少しでも視覚障碍者に使いやすいものがあれば買って使う、というのが私のやり方だった。携帯電話については、「家では固定、外出中は携帯」といった使い分けをするのが当然だと思ってきた。最近は、固定電話を使わない人も増えているが、自分が固定を持たないというイメージはなかった。携帯だけで生活するのは、なんとなくいつも外出中のような落ち着かない気分になるのではないかと考えていた。
 確かに、固定を辞めるとファックスの送受信ができないという不便はある。だが、その時だけ泉郷のフロントに行けば、事は足りるのである。それに、私自身のことを考えれば、自分でファックスを管理することはないのだから、不便とは言えない。仕事の連絡なら、今はすべてメールでできる。この際、もったいないことは辞めよう、というわけである。
 こんなことにこだわるのは、何しろ子供のころから電話が大好きで、家のどこにいても電話が鳴ると走って受話器を取る、というほどの電話マニアだっただけに、電話には普通の人以上のおかしな思い入れがあるのだ。でも、今回取り外すのは山荘の電話であって、自宅の固定電話まで辞めようというのではない。だから、そこまでこだわるのはちょっと異常である。もうこの話は辞めよう。
 明日は、コンサートの実行委員である野田氏と、小松氏、新藤氏にお会いする。長坂のホールの担当者と、コンサートの段取りを打ち合わせる予定もある。あまり足しげく通えない私たちを支えて下さるこれらの方々無しに、サマーコースやコンサートを続けることはできない。そのご支援があればこそ、私は自分の音楽を北杜市の方々に聴いていただく機会が与えられるし、音楽を目指す若者とかかわって、ヴァイオリンの弾き方や音楽のあれこれを伝えることができる。私たちの八ヶ岳での活動に関わって下さる全ての方々に深く感謝しながら、これから本気モードでコンサートの練習とサマーコースの準備に専念する。そして、今年も一人でも多くの方々に、私たちの音楽を通じて喜びを提供できる夏になることを、心から願っている。