新たなチャレンジ

2016年4月6日

 4月に入って6日目。また一つ年を重ねて、6日が過ぎたことになる。「70歳記念演奏会」の興奮から、もう1年が過ぎてしまった。この1年で、私はどう変わったのだろうか、と最近よく考える。
 ベートーヴェンの協奏曲をライブ録音してCDを作るという、かなり思い切ったチャレンジにどうやら成功したのは、温かい心で私のソロを支えてくれたオーケストラの人たちと、指揮者の高関健さん、そしてコンサートの実現に協力して下さった多くの方々のお陰である。勿論、それは私一人の力でできることではなかったが、それでも私は、「自分にもまだこれだけの力があったのだ」と心から喜び、富士山の頂上に立ったような嬉しさを味わっていた。「ここまでやったのだから、後はゆったりと自分にできる活動をして行けばよい」と思っていた。
 だが、日々の生活の中で、いつの間にかその爽やかな気持ちが失われ、富士山の頂上どころか、鬱蒼とした暗い森に迷い込んだような気持ちになってしまうこともある。それでも、「あれほどの試練も乗り越えられたのだから、きっと大丈夫」と自分を励まし、気が付けばまた明るいところに出ている、といった日々の繰り返しである。
 去年は、サイトウ・キネン・オーケストラで演奏する予定だったバルトークの曲を、暗譜が難しいとの理由で下ろしてもらうという、屈辱を味わった。あれは6月12日のこと、「これは無理だ」と思い定め、メンバーから外して欲しいとメールを書いた。幸い、同じコンサートで小澤征爾さんが指揮したベートーヴェンのシンフォニーには乗せてもらうことができたが、バルトークより編成の小さいベートーヴェンだけに乗るというのは、かなり特別な待遇であったと思う。長年のSKOでの働きを評価してくれた結果であろうが、もうあのような甘えは許されない。
 今年は、ファビオ・ルイージ氏と小澤さんが指揮する3曲のシンフォニーを弾くことになっており、一応楽譜は読んだ。時間をかけてしっかり暗譜すれば、なんとかなると思う。ただ、8月には「八ヶ岳サマーコース&コンサート」から、1日の休みもなく松本へ移動して練習に臨まなければならない。今まで経験したことのない過密なスケジュールが待ち受けているのだ。
 八ヶ岳では、「30回記念コンサート」として、16人編成の弦楽合奏を弾き振りするという、喜ばしく大切なコンサートがある。これも、悔いのない演奏ができるようにしっかり準備しておかねばならない。7月下旬からの1ヶ月間は、去年のバースデーコンサートに勝るとも劣らない、厳しい試練の時となりそうだ。でも、これを乗り越えられたら、さらに一回り大きくなった自分と出会うことができるだろう。そして、去年と同じように、高い山の頂を極めた爽快さと出会えるだろう。その日を楽しみに、地道な毎日を歩んで行くつもりだ。