1月最後の夜に

2015年1月31日

 発表会が終わって気が緩んだのか、今週は風邪を引いてしまった。激しい喉の痛みで目覚めたのが27日の朝、しかし風邪は喉と鼻が中心で、やや微熱がある程度の状態が続いている。
 29日と30日は、桐朋学園の卒業試験だった。29日の高校生の中には自分の生徒がいなかったので、よほど欠席しようかと思ったが、「まあ大丈夫だろう」と出かけた。翌日は少し熱が上がり、しかも雪が降るという悪条件だったが、7年以上教えてきた大切な生徒の学内での最後の演奏を聞き逃すわけには行かないので、やはり出かけた。幸い、体温は37度を大きく上回ることはなく、今日も落ち着いている。今回は、絶対に薬を飲まずに直すと決めているので、すっきりするまでには少し時間がかかるかもしれないが、しっかり睡眠を取ることを心がけてやって行くつもりだ。
 今日で1月が終わると、「70歳記念演奏会」がぐっと近づいてくる。今は、実行委員の人たちが、オーケストラのメンバーに練習用の楽譜を送ったり、歴代の八ヶ岳サマーコース参加者に来場を呼び掛ける案内を発送する準備をしてくれている。私も、今週は我が家からお知らせを出す方々への案内状やチラシを封筒に入れる作業をした。来週はそれらがお知り合いの手元に届くわけだが、さて、どんな反応が返ってくる角、はらはらどきどきの日々が続くことになる。
 今日は、ベートーヴェンの協奏曲の最後の4小節をどんな風に弾くか、ずっと考えていた。もう何十回も弾いた曲だから、今更考えるというのもおかしな話だが、オーケストラが強音をとどろかせた後、休息に静まっていって、そこからまたヴァイオリンのソロが主題を奏で始める。最弱音で、下から上へ向かって、3回同じ主題を弾きながら上ってゆくと、締めくくりのフォルティッシモの和音となる。この3小節間の上昇は、なにを表すのだろうか。
 「70歳を迎えて、ここからさらなる希望を持って歩いて行きたい」という私の気持ちに、この上昇形を重ね合わせることができそうだ。常に歓喜に向かって前進するのが、ベートーヴェンの音楽の特徴だから、まさにこの短い上昇形の中に、45分間の長い曲の精神のすべてが込められるのだろう。最弱音の中に最強のエネルギーを込めて弾く、それができるだろうか。そんなことを考えながら、1月最後の夜を過ごす私である。
 それにしても、過激派に捕らわれている日本人のことは、気掛かりでならない。私たちが考える「人間の心」を持たない彼らに捕らえられたのは、大きな悲劇であるが、なんとか救い出されることを祈るのみである。