今年も残り僅か

2018年12月26日

恒例の「クリスマス・バッハシリーズ」も無事に終わり、いよいよ今年も残り僅かとなった。今回は、もう何十年も演奏してきたバッハの無伴奏を3曲、というプログラムだったため、ある種の余裕を持って取り組むことができた。そして、「この年になっても少しずつ演奏を変えて行くことができる」との手応えを持ったのだった。
 最近、23年間愛用している楽器の修復をジェローム・ダリエル氏に依頼し、大変演奏しやすくなった。このことも、本番で「楽器と一体になって音楽を作る楽しみ」を実感できた大きな要素だったと思う。勿論、何よりも大きいのは、バッハの音楽そのものが持つ力だ。その音楽が、私にいろいろなインスピレーションを与え、いろいろなアイディアを実行する意欲を与えてくれるのだ。
 さらに、聴きに来て下さったお客様の熱心な反応、これも私には大きな励みになった。今回は途中で10分間のトークも行ったが、これも概ね好感を持って迎えられたようだった。そのトークの最後に、「どうかお配りしたアンケートでご感想をお聞かせください」と述べた時、その場の思い付きで「1枚のアンケートが私の寿命を1ヶ月伸ばしてくれるので」と言ったら、今までになくたくさんのアンケートが戻ってきた。「なんと優しいお客様なのだろう」と感激してしまった。
 一人で練習していると、時々なかなか思うように弾けないことがあったりすると「もうこの年になって多くの進歩は望めないのではないか?だとしたら努力するだけ無駄かもしれない」などと諦めに似た気分に襲われることがある。だが、今回のお客様の反応は、そんな私を叱咤し「努力すれば報われるのだからギリギリまで頑張れ」と言われているような気持ちになった。「よし、来年もやるぞ」と、今はそんな前向きの気持ちになっている。
 世の中は不安だらけで、新たな希望の持ちにくい年の瀬だが、私は来年も、行く手に希望の光が見えるような音楽を届け続けたいと願っている。そのためには、まず自分が健康な心身を保つこと、そしていっそう自分の音に集中し、今取り組んでいる「力の抜けた弾き方」をさらに研究して行きたい。
 まずは、2月17日に演奏するブラームスのコンチェルトである。おそらく、どの曲よりもスタミナを必要とするこの協奏曲を私が弾くのは、2007年以来である。「死ぬまでにもう一度ブラームスを弾きたいんだ」といろいろなところで話していたら、去年の秋に清里で協演したフィルハーモニックアンサンブル管弦楽団が、その定期公演でブラームスを取り上げて下さった。しかも、素晴らしい指揮者、下野竜也さんとの8年ぶりの共演である。場所は、これまた久しぶりの東京芸術劇場。「やはりこの年令でブラームスを弾くのは大変だ」と自分で落ち込んでしまうことがないよう、しっかり準備をして行きたい。
 バッハに比べて、ブラームスのコンチェルトはハードルが高いと思うが、「まだまだやればできるんだ」と自分自身に証明して見せたい。そうしたチャレンジができる喜びを胸に、私は年を越そうとしている。