先週の土曜日、私は阿佐ヶ谷のルートインホテルで行われた、視覚障害者支援総合センター主催の「点訳講座開講式」に招かれ、「点字は私の宝物」と題して講演した。
昨年11月、サイトワールドでの私の話を気に入ってくださった同センターの高橋実理事長からのご依頼であった。約1時間が与えられ、私は点字が自分の人生を開いてくれたという話から始めて、ごく簡単に点字の歴史やこれを発明したルイ・ブライユについて触れ、実際に点字板を使って文字を書くところをお見せし、現在はパソコンや電子手帳を使って、この何倍もの速さで点字が書けるといったお話しもした。
私は幼少期から点字を習う機会に恵まれ、小学校入学の時には、一応日本語とアルファベット、それに簡単な楽譜が読めた。これは、実に幸運であった。私にとって、点字は絶対的な存在であり、音楽も日常の勉強も、すべて点字で行った。しかし、多数の視覚障害者は、この便利な点字を使うことができず、外界とのコミュニケーションを音声に頼っている。それは、特に中途失明者にとって点字の学習がかなり骨の折れる作業であることや、点字の必要性をあまり認識していない人が少なくないことなど、いろいろな原因が考えられる。視覚障害者にもっと点字を普及させるため、さまざまな試みが行われてはいるが、十分な成果は上がっていない。どうすればもっと点字の学習が容易になるかなど、課題は多いと思う。
講演では、私が代表を勤める「点字楽譜利用連絡会」の活動も紹介させていただいた。点譜連のホームページは、私の母が長年携わっていたボランティア組織、アカンパニー・グループからの貴重な寄付金で、1年余り前に開設された。ここには、国内の多くの楽譜点訳ボランティアの方々の手で点訳された楽譜の目録が掲載されている。楽譜の点訳に携わって下さる方もずいぶん増えたのだが、それでもまだ楽譜は足りない。というより、私がなにか自分にとって新しい曲を弾いたり教えたりしようとすれば、まずは楽譜の点訳をお願いしなければならないことになる。
もう50年も前から弾いているショーソンの「詩曲」も、今年は近年出版されたHenle社の楽譜を点訳していただいて、サマーコースのレッスンに備えている。また、8月中旬には名古屋で小学生のレッスンをするが、その曲の点字譜がないため、無理を言って三重県のボランティアの方に点訳をお願いした。楽譜を次々に提供して下さるボランティアの支えがなければ、私の活動はたちまち停滞してしまう。言い方を変えれば、こうした素晴らしいボランティアたちのお陰で、私は演奏と指導の活動を続けることができるのだ。点字にも、点訳ボランティアの方々にも、どんなに感謝したらよいかわからない。
これほど私にとって大切な点字だから、先週の講演には知らず知らず気合いが入った。私のお話を通じて、これから点訳を学ぼうとする方々に、点字を少しでも身近に感じていただけたとすれば幸いである。
点字楽譜利用連絡会のホームページはこちらです。
点字のお話し
2014年7月25日