コンサートまで1週間

2013年5月31日

 5月の最後の日になってしまった。初夏らしい爽やかな気候が続いていたのに、最近は蒸し暑い日も増えて、「夏に向かう試練の季節だな」と私はちょっと身構えている。ここを通り抜けなければ、私の好きな夏はやってこない。それにしても、ついこの間までひんやりと冷えた空気にうんざりしていたのに、この変わりようには驚いてしまう。
 ヨーロッパから届く便りでは、無効はずいぶん気温が低いらしい。パリなどでも、夜はまだ温度が一桁代に下がっているようだ。東京も、いつまた梅雨寒になるかわからない。先のことを心配しても仕方ないが、とにかく快適に過ごしたいものである。
 ところで、私の「デビュー50年記念コンサート」が近づいてきた。本来、デビューしたのは1963年の12月であったから、記念コンサートは秋にやるのがふさわしいと思えたが、2年ぶりに「クリスマス・バッハシリーズ」を再開する計画もあるので、それとあまり近づかない方が、お客様には来ていただきやすいだろうと考えて、梅雨入り直前の日曜日を選んだ。ところが、お天気の神様はそうした私の願いなど聞かず、さっさと梅雨入りさせてしまった。こうなったら、「梅雨の晴れ間」になってくれることを期待するばかりだ。
 今回のコンサートには、イベント的な要素は全く持ち込まず、純粋に音楽を聴いていただく内容にした。最近の私のコンサートは、バッハシリーズを除けば、ほとんどがトーク付きの演奏である。その方がお客様に好まれるし、私もトークは嫌いではないから、お話しを通じて音楽が皆さんのより身近なものになればと願って、お話しをしている。確かに、トークが加わる方が客席の雰囲気が和やかになり、よりスムーズなコミュニケーションが生まれる場合が多い。だが、本当のプロの演奏家なら、やはり演奏だけでそういう雰囲気を作り出せなければだめだと、私は一種のこだわりを持っている。多くの聴衆にとってはかえって迷惑なこだわりなのかもしれないが、「音楽だけでどこまでお客様の心に届く演奏ができるかを立証したい」という気持ちは、常に心のどこかにある。東京では、2008年に行った「イザイ生誕150年記念」以来の試みとなる。
 本音を言ってしまえば、「デビュー50年記念」という包装紙を付けることで、お一人でも多くの方に私たちのブラームスを聴いていただければ、との願いから発した企画である。デビュー当時からずっと私の身近にあった作曲家ブラームス、長年演奏してきた彼の作品を、今の私が、デュオ・パートナーの土屋美寧子とどんな風に演奏するのかを聴いていただきたい、それだけなのだ。そして、この演奏会が新しい出発点となって、もっと全国津々浦々へ出かけてヴァイオリンの調べをお届けできるようになれば、これに勝る喜びはない。
 どうすれば、もっと私の演奏を聴こうと思って下さる方が増えて、コンサートの機会を増やすことができるのか、それはこれからもずっと私が背負って行かなければならない課題なのだろう。でも、とりあえずは響きの素晴らしい紀尾井ホールでの9日の本番に集中することを心がけ、多くのお客様との幸せな出会いを楽しみに準備を進めて行きたい。