毎日あれこれと忙しく過ごす私だが、いつの間にか今年も残りわずかになってきた。「クリスマス・バッハシリーズ」の無伴奏リサイタルまで、後10日。今はとにかく、できるだけ練習時間を確保して、少しでも演奏のレベルを上げようと、そのことばかり考えている。
2週間前は、チャイコフスキーの協奏曲のリハーサルと本番、藝大での弦楽オケのリハーサル、そしてバルトークのソロソナタの譜読みで、慌ただしく過ぎた。チャイコフスキーは、11年ぶりに弾いただけに、スタミナが心配だったが、本番は余力を持って乗り切った。ただ、その後数日は疲れが残り、あまり気分が良くないまま働いていた。
先週は、2日にわたる学生コンクール・全国大会の審査、藝大でのリハーサルと本番と、これまた慌ただしく過ぎた。全国大会初日は、小学校と中学校の審査だったが、点数を付けるのが非常に難しく、幾分睡眠不足だったことも手伝って、夜はもうよれよれの状態だった。2日目は高校の部の審査で、この日は比較的元気だったが、その翌日がひどかった。午前中プールに行くつもりだったのを辞めて練習したのだが、全く能率が上がらず、「こんなことで12月が乗り切れるだろうか」と不安を感じるほどだった。
だが、有り難いことに、少しずつ元気が戻ってきた。土曜日に、ヴィヴァルディの「四季」などを弾いた時は、リハーサルから本番までの待ち時間が5時間と、非常に長かったにもかかわらず、あまり疲れを感じないで楽しくできた。
そして今週は、火曜日にプールへ水中運動に行っただけで、後はずっと家に閉じこもり、練習とレッスン、それに読書などで過ごした。7日間に14人のレッスンというのは、私にはかなりの労働だったが、試験や発表会を控えている生徒たちは、皆スイッチが入った感じで、しっかり練習してあった。生徒たちがやる気を見せてくれると、こちらも励みになるし、疲れも半減する。自分の練習も、それなりに悔いなくできた。チャイコフスキーを弾いてから一度ダウンしていた体調が、12月23日のリサイタルに向けて上向いてきたのを感じる。やはり私は、コンサートを中心とした生活なのだ。
だが、油断はできない。来週は、まず仙台での「点字楽譜連絡会」のセミナーのため、日曜日に日帰りで出かける。続いては、大学での後期実技試験の採点だ。金曜日は、バッハシリーズの練習を兼ねたプライベートなコンサートがあるため欠席させてもらうが、つごう3日は大学に行くので、今週のように家に閉じこもって過ごすわけにはいかない。
もう一つ、週末は美寧子がピティナの審査で仙台へ行くため、土曜の午後から日曜の夜まで、一人で過ごさなければならない。彼女は「静かでいいでしょう」などと言うが、私は少々心細い。でも、「一人でのうのうと過ごそう」と居直って、ここでぐっと練習にも馬力をかけるつもりだ。
バッハ、バルトーク、イザイを演奏する今回のプログラムは、かなりチャレンジングなものなので、いくら練習しても「これでよい」ということにはなりそうもない。それでもなんとなくすっきりした気分でいられるのは、あの4月の「70歳記念」の時の試練を乗り越えられたことが大きいのではないかと、自分では思っている。あの時は、オーケストラとの練習が3日続いた上に、当日は朝の8時15分に家を出て会場へ向かい、10時からほぼ2時間のリハーサルをこなした。あれに比べれば、今回はずっと楽である。無伴奏だから誰かと合わせるリハーサルはないし、当日も10時までに家を出れば十分である。だが、演奏の質だけは、あの時に負けないものにしたいと、気持ちを高めている。とにかく、今年最後のコンサートなのだ。幸せな1年を、納得の行く演奏で締めくくり、新しい年に繋げて行きたい。
4月のコンサートで力が出せたのは、オーケストラ・メンバーを初めとする多くの協力者の励ましと、満員のお客様に恵まれたお陰だった。それに比べて、無伴奏は孤独感の伴う仕事だから、自分で気持ちを上手にコントロールしなければならない。
それにしても、紀尾井ホールにはあれほど多くのお客様が来て下さったのに、それより狭いホールでまだ半数が空席、というのはいささか寂しい。催しの多い休日の午後なので仕方ない面もあるのだろうが、これからでもたくさんの方がチケットを求めてご来場下さることを、ただただ祈るばかりだ。
4月のコンサートから8ヶ月を経過して、私はまた少しだけ変わったと思う。その「今の私」を、多くの方々に聴いていただきたいと願っている。心安らぐことの少ない昨今だけに、コンサートでは、聴いて下さる皆様に心からのくつろぎを味わっていただくとともに、明日に向かっての希望をはっきりと感じ取っていただけるような時間にしたいと思っている。
東京文化会館小ホールで、お待ちしています。
近づくバッハシリーズ
2015年12月12日