今年最初のコンサート

2020年1月25日

3日前の1月22日、日本と海外から来日している女性の交流会である「なでしこ会」のイベントに招かれ、美寧子とともにイタリア大使館で演奏した。企画を立てたのは私たちの親しい友人のジュリア、去年のボローニャとミラノでのコンサートの仕掛け人だった人である。
 ビジネスとは無関係なジュリアが持ってきてくれる演奏の機会は、全てがボランティアであるが、プロ野球選手のオープン戦のような気持ちで、やらせていただいた。ピアノの調律だけでなく、ふかふかの絨毯が敷き詰められた部屋で、大きなグランドピアノを私たちの希望する位置まで移動させるなど、我々が少しでも演奏しやすい環境を整えるために、大使夫人が中心となってできる限りの努力をしてくださった。
  やはりジュリアの知り合いで、先輩のクラリネット奏者、二宮和子さんにも共演をお願いしたお陰で、バラエティーに富む選曲が実現し、熱心なお客様に恵まれて、思ったよりずっと楽しい気分で演奏できた。
 純粋にフィジカルな面だけで言えば、私たちの体は既にピークを超えているだろう。だが、「良い音楽をやりたい」という情熱は、おそらく今がピークなのではないだろうか。そうした3人の熱い心が集まったことで、あれほど気分が高揚したのだろう。勿論、美寧子と二人の演奏でも、私は変わらない情熱を傾けているが、素晴らしい二宮さんが加わってくださったことで、心身に大きな刺激を受けたのは間違いなかった。3人で演奏したのは、ミヨーの組曲だけだったが、二宮さんはエレガントなピエルネの小品「カンツォネッタ」を、美寧子と一緒に奏してくださった。良い気持ちでそれを聴いた後、クライスラーの小品を弾いた時の幸福感は、例えようもなかった。
 終演後のお茶の時間に、多くのお客様の感想を聞くことができたが、私が嬉しかったのは、「英語で解説してくれたのがとても良かった」との声が多数寄せられたこと、そして「ヴァイオリンの優しい音色に癒やされた」との声であった。解説は、特に今年がベートーヴェンの生誕250周年であることに触れ、「なぜベートーヴェンが多くの演奏家の意欲をそそるのか」といった話をした。「音楽家が、どんな風に曲を感じて演奏しているのかを語ってくれる機会はめったにないので、今日はとても良い経験になった」などの声を、日本語を話さない多くの方から聞けたのは、幸せなことだった。
 「ベートーヴェンは、芸術音楽を上流社会の人たちだけのものではなく、みんなのものにしたいと考えて作品を書き続けました。いわば、音楽の世界で革命を起こしたのです。そのエネルギー、そして常に自分の心を飾らず、本心を音に込めて表現する率直な姿勢が、多くの音楽家と聴衆を引き付けるのだと思います」と話したのだが、英語がちゃんと通じるかどうかに一抹の不安があった。でも、お客様の多くがそれを喜び、「説明のお陰で一層楽しく聞けた」と言ってくださったことには、大いに勇気をいただいた。
 2020年最初の本番は、まずまずの手応えで滑り出した。次の本番は、2月23日の横浜でのレクチャーコンサートである。この企画は2年連続だが、去年以上にお客様に満足していただけるよう、情熱を持って臨もう。